私の職場に柔和な笑顔と物静かな口調が印象的な方がいます。
抜けるように白い肌はマシュマロよりも柔らかそうで、
彼女の側にいるといつも芳しい薔薇の薫りが立ちこめます。
薔薇がお好きなようで、香水ばかりかお洋服も薔薇模様が多く
いつしか、秘かに『薔薇夫人』と呼ばれるようになりました。

 私はそんな薔薇夫人とは挨拶を交わす程度で、普段ほとんど
接点がないのですが、先日ランチタイムの出来事。
一つ離れたテーブルで薔薇夫人がお食事中でした。
いつものようにご挨拶だけして同行者と歓談していましたが、
会話の隙に耳にした薔薇夫人のこんな発言に思わずフリーズ。
「それでね、マリリン・マンソンがね…」
まりりん・まんそん……。薔薇夫人の口から出ると、
一瞬何の事だか分からなくって、あのマリリン・マンソンか〜、と
意外な趣味に感じ入っていると、更に追い打ちをかけるように
「一水会っていうのがあってね、鈴木邦男っていう右翼の人が…」
えーと、薔薇夫人?あなたは本当に薔薇夫人なの?

 同席者との会話も疎かには出来ず、私が聞いたのは
これだけでしたが私が今まで漠然と抱いていた
彼女のイメージを大きく修正せざるを得ない会話でした。
彼女とマンソンの組み合わせがあまりにも意外で、
インパクトが強かったのです。
薔薇の花びらとエッセンスを入れたお風呂からあがった彼女が
全身に薔薇の香水を吹きつけるその時、
BGMはマリリン・マンソン。
時にはナイン・インチ・ネイルズやプロディジーかも。
ああ、何だか素敵過ぎ…。

 綺麗なのに、気さくで面白いとか、頭がいいのに、
どこか抜けているとか、見かけのイメージとリアルの落差は
時に人を魅了するきっかけとして語られますが、私も
少なからず関心を寄せてしまいました。
しかしながら、極度に人見知りで内弁慶な私が、
易々とこれまでのスタンスを変えられるとも思えず、結局
「マリリン・マンソン以外にどういうの聞いてますか?」とか
「チャールズ・マンソンにも興味ありますか?」とか
「じゃあ、『リブ・フリーキー!ダイ・フリーキー!』
(シャロン・テート事件が題材の映画)ご覧になりました?」とか
「鈴木邦男ファンですか?野村秋介はどうですか?」とか
そんな会話をする事もなく、従来通りの会えばご挨拶程度の
関係で終るのだろうなと思います。

 それでもいつか五月の夕暮れ時、散歩の途中で
どこかの庭から薔薇の香りが漂ってきたなら、
きっと私は薔薇夫人の優しい声を思い出す事でしょう。
その時、私の頭の中ではいつまでもマリリン・マンソンが
鳴り響いているに違いありません。
 
 

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